そんな話をした一週間前を思い出しながら、目の前に立っている颯ちゃんを見ている。

 涼やかな着物を着た彼は、本当に『立派すぎる令月香の香司』だと思った。
「ああ、颯也君、わざわざ店に寄ってくれたんか? そのまま教室へ行ってくれたらよかったのに」

 暖簾をくぐって奥から祖母が出てきた。祖母は颯ちゃんの声が聞こえて嬉しかったのだろう。目じりを下げながら話しかけた。

「通り道でしたので。花さんと一香さんにご挨拶してから行こうと思いまして」

 丁寧に頭を下げる彼に、祖母は「いつまでも硬いなぁ」と笑っている。「それが颯也君らしいけどな」とも言う祖母は、やはり嬉しそうだ。

 祖母は本当に颯ちゃんが好きだ。心から彼のことが可愛いのだろう。

「でも、まだ早いんちゃうか。お店も開店前やし、ちょっと休んでいき」

 そう言いながら祖母は、暖簾をくぐり、再び居間へと戻った。

 温かいお茶でも入れるつもりなのかもしれない。ほんと、のんきなんだから。
 祖母の背中を思い出して小さく笑うと、横から視線を感じて、そちらに目を向けた。

 先ほどこちらを見ていたであろう視線がスッと外される。私が黙って彼の横顔を見つめていると

「今日も暑いですね」

 抑揚のないロボットのような話し方で、彼が言った。