そんな時、
『来週の日曜日、山田さんとこで組香があるんやわ』
ぽつりと祖母が言った。
私は、『行ってみたいな……』と思った。
勉強不足なのは自覚している。でも、祖母はいつも『私のそばにいたら大丈夫や。そんなに難しく考えんでも十分楽しめるで』と言ってくれたから。
祖母にそう言っても、なんとなく敷居が高いイメージがあり、一年前の私は勇気が出なかった。でも、今の私は行ってみたいと思っている。もっと香りに詳しくなりたい。この店で必要とされる人になりたい。
けれど、いくら待っても、祖母は誘ってこなかった。
毎回断っているから、諦めているのかもしれない……。そう思い勇気を出して、『私も一緒に行っていい?』と聞こうとした。
その時、祖母の色が暖かく変化したのが分かった。
祖母は今、誰かのことを思い出している。
祖母の心をとらえて、これほどまでに暖かい気持ちにさせる人はきっと……。
『来週の組香な、颯也君に行ってもらうことにしたんや』
やはり、颯ちゃんだった。