電話を切ってしばらくぼんやりしていると、令月香の扉が開いた。
そこに高貴で端正な男性が立っていた。彼をとりまく色は今日も見えない。
代わりにまばゆいほどの夏の眩しさをまとったその人は、私を見てひかえめに微笑んだ。
「一香さん、おはようございます」
「お、おはようございます」
思わず敬語になってしまった。
今日の颯ちゃんの着物が見たことない着物だったせいか、どことなくいつもと雰囲気が違うように見えたからだ。
今日は水曜日、やわらぎ聞香処の定休日だ。
定休日の朝に令月香に現れた颯ちゃんを見て、私はハッと思い出した。
そうだ、今日、颯ちゃんは……。
「組香(くみこう)に行かれるんですよね?」
「ええ。そうです」