「おばあちゃん、電話だよ？」

　小さな声で奥の和室にいつであろう祖母に声をかけると
「今、着付け中なんよ～。一香、出てくれるか？」
　ひょいと顔だけだした祖母にそう言われてしまった。

「う、うん……っ」

　私は震える手で、受話器を持った。
　大丈夫、大丈夫。そう自分に言い聞かし、受話器を耳にあてる。

「一香、元気か？」

　電話越しの低い声を聞いて、私は動けなくなった。

――お父さん、だった。

「う、うん……元気にしてるよ」

　父は私が中学へ入る前に単身赴任が決まり、東京を離れた。小五の夏から私と母の関係がうまくいっていないことに気づいた父は「一緒に来るか？」と言った。けれど、私は首を横に振った。そして、中学時代の三年間、私と母は二人暮らしをしていたのだ。

「そうか、それやったらよかった。あんな、実は大事な話があって電話したんや」

　京都出身の父は、関西弁を織り交ぜて話す。

「隣に由美子もいる」

　由美子とは私の母親だ。
　母の名が出ただけで緊張が走る。私は今から何を言われるのだろう……と身構えてしまう。

「父さんの単身赴任が終わることになって、東京に戻れることになったんや。だから、一香も東京に戻ってこうへんか？」

「え……」

「また三人で一緒に暮らそう」