広い背中に頬をつめたまま、ぽつりとつぶやいた。颯ちゃんはしばらく何も言わなかった。

 長い石階段を下り終えて、私は颯ちゃんの背中から降りて頭を下げた。

『突然、ごめんなさい』

 黒い地面を見つめる私の頭の天辺に、大きな手のひらが乗った。

『どうして謝るんですか?』

『変なことを……言ったから?』

『変なこと、なんですか? ウソをついた、ということですか?』

 颯ちゃんは、頭のいい人たちが行く大学に通っていると祖母が言っていた。
 だから、私も颯ちゃんには、わからないことはないと思い込んでいた。
 けれど、私の言葉を聞いた颯ちゃんは、すごく困っているように見えた。

『ううん。嘘じゃない。颯ちゃんだから、話したいって思ったの……。でも、颯ちゃんを……困らせたから? 謝ったんだと思う……』

 正解がわからなくて、おかしな返事になってしまった。

『困っているのは一香さんでしょう? だから、他人のことまで心配して、これ以上、傷つかないでください』

 私が他人を困らせていると思っていたのに、困っていたのは、私なの?
 颯ちゃんの言葉に胸が熱くなり、目に涙が溜まる。

『あなたは――…………』