彼のこの優しさは、やっぱり今も……家族愛?
 今も九つ離れた妹のように、私のことを心配しているだけなの?

 きっと、そうだ。颯ちゃんは、私のこと妹みたいにしか思ってない。

 でも、私は――……。
 大切な人が隣にいてくれる奇跡を手放したくない。


 私は勇気をふり絞って、彼の手の上に自分の手を重ねる。重ねた手はゆっくりと包まれた。

「小さな手ですね」

 ふと颯ちゃんが言った。

「颯ちゃんの手は……冷たいよ?」

「はは、一香さんが温かいだけでしょう?」

「温かいけど、子どもじゃないから」

「え」

 先手を打った。颯ちゃんの子ども扱いが始まる前に。

「私、もう……高校生なんだから」

 人混みのことをいいことに、夜の暗さをいいことに、私は飛び出しそうな胸と、真っ赤になりすぎる頬を隠して、彼に伝えた。

「………わかりました。でも、そんな目で見るのはやめてください。……僕は、どうしたらいいのかわからなくなる」

 思いがけない言葉に目を上げると、赤い頬をした颯ちゃんがいた。

「え……」

「ほら、帰りますよ。花さんが待ってる」

「う、うん……っ」

 私たちは手をつないで帰った。

 たくさんの人込みの中に通り道を作ってくれる颯ちゃんの背中は、いつもよりも広く、そして少しだけ近く見えた。