次々に点火されていく五山の送り火を見ていると、ふと彼の横顔が目に入った。

 私はそっと彼を覗き見る。

 隣で炎を見ている彼は、私にとっての「会いたくても、会えなかった人」。
 その彼が今、隣にいてくれるということは、最大級の奇跡なのかもしれない……。

「送り火は、もう見なくていいんですか?」

 こちらを見ることもなく、炎を見ながら彼が言う。

 きっと横顔を見ていることに気づかれたんだ。

 私は恥ずかしくなって、顔を伏せて言った。

「うん。もう……大丈夫だよ?」

 大文字の炎の揺らめきは、大体三十分くらいで消えていく。その時間ももうすぐ終わる。

「では、戻りましょうか」

 そう言った彼の大きな手が、私の前に伸びてきた。

「え?」

「すごい人ですので、帰り道、迷子にならないように」

 しみいるように静かな瞳で見つめられ、胸の奥がキュッと縮んだ。