その瞬間、猫を取り巻く薄紫色が、ポンポンと開いていった。

 真っ直ぐに伸びたその先に、可憐な色を咲かせていく。

 ああ……、と私は思った。

 やっとわかった。
 その色は、花の形をしている。

 小さな蕾が次々に開花していき、白猫はラベンダー畑の中にいるように見えた。

 色が花の形を持つところを……、これほどの愛に満ちた色を……、私は初めて見たのだ。

「帰ってきてくれたんだな……」

 猫をギュウと抱きしめて青木さんが言った。

 白猫は、彼の涙を拭くように何度も何度も頬ずりをする。

 それでも彼の涙は止まることはなくて。
 白猫は、しばらくそうした後、ピョンと彼の腕の中から飛び降りた。

 たくさんの花束の色に包まれた猫は、何も言わず歩いていく。

 玄関前で振り向くと、目が合った気がした。猫の姿の中に、彼女の笑顔が見えた気がして、私は柔らかく微笑み返した。

 青木さんは、頭を下げると、白猫と一緒にやわらぎ聞香処を出て行った。