「それは、ご自分のためでなく、旦那さんのために用意されていたそうです。ラベンダーの香りが彼を助けてくれたから」

「助ける?」

震える声で青木さんが問うた。

「ご主人は教師をされていた。けれど、働きすぎで心を壊し、学校へ行けなくなってしまった」

「……」

「可愛い子どもたちのために学校へ行きたいけれど、行けない。そう思い悩む彼の支えに彼女はなりたかった。色々なことを試して、ひとつだけ効果があったものが、令月香のラベンダーのお香だったそうです」

「……ラベンダーのお香」

「彼にラベンダーの香りを届けると、彼の表情は和らいで、リラックスした表情になったそうです。そして、しばらく令月香のラベンダーの香りに包まれた暮らしを続けていたところ、しばらくして、彼は仕事へ戻れることができたそうです」

「なるほど。ラベンダーの香りには、リラックス効果がありますからね」

 呟くように颯ちゃんが言った。

「どういうことだ?」

 青木さんが颯ちゃんに目を向けて訊いた。

「ラベンダーの香りは、うつや無気力、ストレス解消といった心への良い作用と、血圧低下や筋肉の緊張をほぐす体への良い作用が期待できます。ラベンダーの高いリラックス効果のおかげで、その方の副交感神経が優位になり、現状を乗り越えられたのかもしれませんね」

 颯ちゃんが丁寧に話してくれた。