愛ちゃんに怒られた後、その日の出来事を母親に話した。初めて色が見える話をしたのだ。

 私の言葉を聞いたあと、母親の体を取り巻く緑色は、くすんだ。

『ウソでしょ?』
 母親は、笑いながら言うので、
『本当だよ? お母さんには見えないの?』
 真面目な顔をして答えた。

 すると、母親の体を取り巻く色は、炎のように燃え上がり、大きく長く揺らめいた。

『お母さん?』

 心配になって問いかけると、その色は深く沈んだ色合いに変わり、ぐねぐねと母の体に巻き付いた。心配と困惑と恐れ、全ての感情が入り混じっている。その色は消えることはなく、浅黒く変化していく。

『ごめんね。ちょっと……休ませてもらってもいいかしら?』
『うん……』

 その日から母親の顔色や体調は、母親を取り巻く色と同じく、どんどん悪くなっていった。

 ――私のせいだ。と思った。

 私が母親を苦しめているのだ。

 どうしていいかわからなかった小学校五年生の夏、私は一人で祖母のところへ行きたいと言った。

 そして、柔らかな桜色をまとった祖母は、揺らめきも陰りもみせずに、小さな私を迎え入れてくれた。

 そんな祖母がアルバイトさんに選んだ人、三ツ井颯也さんには、出会った時から色が見えなかった。

 もしかしたら、”透明色”という色を身につけているのかもしれないけれど、色が見えない人と出会ったのは初めてで。私はすぐ彼になついた。
 大きな手のひらで何度も頭を撫でてもらった。一緒に遊んでもらい、たくさんわがままを言った夏だった。

 そして、もうすぐその楽しかった夏休みが終わってしまうと思ったあの夜、私は彼に悩みを打ち明けたくなったのだ。


――『ねぇ、颯ちゃん……、私ね、人に、色が見えるんだ……』