私は彼の話を聞きながら、ラベンダーの彼女のことも思い出していた。

 この時期に『会いたくても会えない人』を想う彼女がラベンダーのお香を必要としているのは、もしかして、大切な故人へ向けた想いなのかもしれない。

 それならば、私はお盆までに必ずラベンダーのお香を用意しなければいけないと思った。

「少し、気分が晴れましたか?」

 顔を覗き込んで颯ちゃんが言った。
 彼の優しい眼差しに心が晴れやかになる。

 颯ちゃんがいてくれて、よかった……。

「うん。ありがとう」

「でも、突然どうしたんですか?」

「うん……、最近おばあちゃんの調子が悪いからなんだか心配しちゃって。きっと私の考えすぎだよね。颯ちゃん、ごめんね」

「いえ、花さんも虎次郎さんも、僕にとっては命の恩人ですから。一香さんが想うように……、僕もお二人のことを想っていますから」

 空には満月が輝き、河川敷では風鈴灯が揺れて音が鳴る。
 夜風が吹いて、颯ちゃんの言葉が心を通り抜けていく。

 ――だから、一人で悩まないでください。

 一人じゃないと思えたら強くなれる。
 ありがとう、颯ちゃん。

 そう呟いて、私は隣の彼を見上げた。