私たちは商店街を通り抜けて、すっかり暗くなった夜の街を歩いた。

 窓からは柔らかな光が漏れ、どこからか夕飯のおいしそうな匂いが漂ってくる。先斗町の路地には、芸舞妓さんの姿がちらほら見える。その路地をも通り過ぎ、鴨川の見える大橋にさしかかって私は息をのんだ。

「これ……なに……?」

 鴨川の河川敷にシンボリックな灯りがあった。

 その灯りは河川敷にポツンポツンと置かれて、鴨川沿いを照らしていた。
 じっくりとその灯りを見ると、その灯りは丸い竹籠の中でゆらりと揺れている。
 見たことのない京都の夜だった。

 隣の颯ちゃんを見上げると、「京の七夕です」と呟いた。

「えっ? 今、七夕のイベントをするの?」

 そう訊いたのは、今が八月だからだ。

「ええ。旧暦の七夕にあたる八月に、この京の七夕は開かれるんです。ご覧になったことはありませんでしたか?」

「うん。初めて」

京都へ来てから、特に八月はお店が忙しくて、夏のイベントにはほとんど参加したことがなかった。

「そうでしたか」

 ポツリと呟く彼の輪郭が優しい灯りで縁どられている。
 私は河川敷にぽつぽつと置かれた灯りを指さして言った。

「ねぇ颯ちゃん……、あれは何?」

「風鈴灯です」

「風鈴灯……」

 丸い竹籠の中でゆらゆらと揺れる灯りの名前は、とても綺麗だと思った。夜空の星に負けないくらい、美しく輝く夜の灯り。

「綺麗だね……七夕の夜にピッタリ」

 彼はこの行事を知っていて、私を連れてきてくれたのかもしれない。

「河川敷に降りましょうか?」

「うん」

 階段を一段一段降りて行く。私服姿の彼の隣にいるのは、和装のままの私。
 けれど、京都には和装姿や浴衣姿の女の子が多くいるので、いつも通り違和感はない。

 特に、この京の七夕イベントには、男女ともに和装の人が多くて。なぜだろうと辺りを見回していると、スッと細い手が伸びてきた。

「ようこそ、京の七夕へ。鴨川会場では、和装の方に先着でプレゼントを配ってるんですよ」

 スタッフと書かれた名札をかけた彼女は、花提灯を渡そうとしてくれたが、私は慌てて断った。

「ありがとうございます。でも、私、…すぐ近くのお店のものなので。他の観光の方に渡してください」