彼女は、思い出のラベンダーの香りを持って、大切な人に会いに行きたかったのか。

 その後、彼女は彼との物語を話し出した。私は静かに聞いていた。
 ゆらりと店内に漂う残り香が彼女の過去に色を添えていく。大人の恋の話だった。

 儚く、切なく、ただその人のことだけを思う彼女の恋心が、私の胸を突くように届いている。すべて話し終えると彼女は「ありがとう」と言ってから言葉を続けた。

「聞いてもらったのは、初めてだわ……本当に心が空っぽになったみたい」

 まっさらにすんだ薄紫色をまとって彼女は私を見つめると「あなたは?」と聞いてきた。

「あなたには、そういう人はいないの?」