書道、華道、そして香道。

 三つの日本の伝統芸能のことを「三道」と呼ぶ。

 その道の奥は深い。
 私にはわからないことがまだまだたくさんあるけれど、香りを嗅ぐのではなく、聞くというその意味を知った時、スッと腑に落ちた。

 それは、私も実感していたからだ。

 聞香体験をされたお客様の色は、体験前と後では、すごく違った。
 聞香体験前、どこか疲れが見える色であっても、体験後は明るく澄んだ色になっている。

 透明感があり、瑞々しさが宿った色は、とても美しかった。
 心を空っぽにすることの大切さを、香りはいつも教えてくれる。

「いい言葉ですね。ほんと、その通りだわ」

 落ち着いた声で彼女はそう言った。

 私はそんな彼女を見ながら、彼女はラベンダーの香りに乗せて、何を言おうとしているのだろうと考えた。様々な香りがあるのに、他の香りを選ばないのはどうしてだろう。

 けれど、本当のことは彼女にしかわからない。これ以上は、踏み入ってはいけないとも思い直して瞼を閉じると、彼女がゆっくりと話し出した。

「私………会いたい人がいるんです」

 これは、香りに運ばれて出てきた彼女の本心だと思った。

「もう会えないけれど、会いたい人がいて……。彼が好きだった令月香さんのラベンダーの香りを持っていけば、また会えるような気がしているんです」