どちらが店員かお客様なのかわからない。
今の彼女に私は、ただの女子高生にしか見えていないのかもしれない。
けれど、彼女の色が本物の優しさに包まれているから、社交辞令でないことはわかった。安心して、彼女の優しさに身をよせられる。
初めてのお客さんが彼女でよかった。
優しすぎる彼女の色に感謝しながら、私は聞香体験を始めた。
私は颯ちゃんをイメージして、背を伸ばす。
『呼吸の整え方、声の出し方、それらすべて、香りの邪魔をしてはいけません。お客様がゆったりと香りに心を傾けられるように、僕たちの所作に心を見出されないように、丁寧に美しく。』
彼の言葉のひとつひとつを頭の中で反芻しながら、私は聞香体験を始め、なんとか終えることができた。