彼女は笑顔でついてきてくれた。

 令月香とやわらぎ聞香処をつなぐ通路を通り、真っ暗な問香処に電気をつける。店内にオレンジ色の灯りがともり、黒を基調としたモノトーンの店内を現れる。

 やわらぎ聞香処を見て、彼女が感嘆の声を上げた。

「とっても綺麗ですね」

「ありがとうございます。」

「素敵なお店……」

 そう呟く彼女をカウンターへと誘導し、私は大切なことを伝えた。

「実は、私……お客様に聞香体験をしていただくのは初めてなんです……。ですから、本日のお代は結構ですので……」

 颯ちゃんや恭太郎相手には、何度も何度も練習し、颯ちゃんからは『もう一人でも大丈夫ですね』とお墨付きをもらったけれど、初めてお客様の前に立つときは、隣に颯ちゃんもいてくれると思っていた。

 けれど、今日、彼はいない。一人きりで、行わなければならない。

……大丈夫だろうか。

 胸が早鐘をなり続けている。

 私の緊張を読み取ったのだろうか、彼女は柔らかく言った。

「誰にだって初めてはありますよね。だからうまく行かなくても大丈夫ですよ。練習相手だと思って気軽にしてください」