言葉にしてから、後悔の念が押し寄せる。

 だって、今日、問香処は定休日だ。颯ちゃんは祖父のお寺参りについていき、ここにはいない。彼がお店にいてくれないということは、私が香りの聞き方をお伝えしなくてはいけない。

 それでも私は、彼女を悲しい気持ちのまま返したくなかったのだ。他の香りの力を借りてでも、彼女の色を明るいものにしたいと思ってしまった。

「聞香って?」

 不思議そうに彼女が首を傾げる。私は簡単に説明した。

「聞香とは、香木の香りを鑑賞することを言います。その所作を香りを聞くと書いて、聞香と言うのです」

「へぇ」

「そして先月、令月香の奥に聞香体験ができるカフェがオープンしました。聞香カフェでは、難しい作法はあえて省略して、気軽に香木の香りを楽しんでいただけます」

「聞香体験ができるカフェだなんて素敵ですね! ぜひ、体験させてください」

「それではこちらへ」

「はい」