颯ちゃんに補充してもらったはずのラベンダーのお香が売り切れていた。

 私は店の奥の棚の整理をしている祖母の側へ行った。ラベンダーについて問うと、「昨日、全部買われたんよ」と祖母は言った。

「全部? お一人で?」

「そう。ラベンダーのお香のファンなんやって」

「そんな……」

 そんなこと、起こるなんて思ってもみなかった。こんなことになるのなら、取り置きをしておけばよかった。玄関入口に立っている彼女はきょとんと首を傾げてこちらを見ている。

「おばあちゃん、ありがとう」

 私は、祖母を奥の商品棚のところへ残して、彼女の側へ行き、事情を伝えた。

 二度も足を運んでいただいたのに、お渡しできなかったのは、私の配慮不足のせいだ。

 そう思い、心を痛めて、彼女に向かって丁寧に頭を下げる。

「ラベンダーのお香ですが、本日も売り切れておりまして……。先日、補充した時に取り置きをしておけばよかったのですが……大変申し訳ありません」

 私の声に彼女は首を横に降った。

 そして、「気にしないでください」と淡く微笑んだ。

 彼女を取り巻く薄い紫色が薄くなっていく。残念、落ち込んでいる、そんな時に変わる色の変化だった。

 このまま帰っていただくのも忍びない。
 今日は、祖母もお店にいてくれるから……

 私は勇気を出して、声をかけた。

「おわびと言ってはなんですが、もしよろしければ、奥の聞香処で休んでいかれませんか?」