「店番あるから。最近おばあちゃん、疲れてるみたいで心配なんだ。だから夏休みは休みなしで働くつもり。あ、でも、恭太郎は気にしないで行ってきてね。海でも山でもどちらでも、みんなで行ったら楽しいと思うから」

「なんやねん、それ。悩んで損したわ。俺もちょうど忙しいから行かへんって言おうと思ってたんや」

 なにそれ。
 恭太郎の発言はよく意味が分からないけど、雫屋さんも夏は涼やかな和菓子がよく売れる。現に六月末に食べる水無月のころから毎日、忙しそうだ。

 私たち老舗を継ぐ子供や孫は、いつもこんなふうに店番をしている。だから、友だちもわかってくれるはずだ。

「じゃあ、後で返事しよっか。残念だけど」

「せやな」

 恭太郎と話しを済ませて帰って行った。
 私はふいにあることを思い出し、颯ちゃんに声をかけようした。

 しかし彼は、壁のほうを見ている。何か考え込んでいる?

「颯ちゃん?」

 そっと声をかけると颯ちゃんが振り向いた。そして、スッと目を伏せて、「一香さん、申し訳ありませんでした」と言葉を零した。

「え、何?」

「海、楽しみにされていたんではないでしょうか……」

 冷静な彼が落ち込んでいるように見えた。

「熱があがってしまい、あなたの意見を聞かずにあんな大人げないことを……」

 颯ちゃんは恭太郎に言ったことを気にしていたのだ。

「私、実は、海は苦手なんだ……」

私は苦笑して言った。