返事をしない恭太郎に、もう一度颯ちゃんが問うた。
あまりにもクールな声色に、私のほうが瞬殺されそうだ。
彼が言う“海”が北極海のように感じる。流れてきた海氷が体にあたって痛くて寒い。
「……なっ、なんやねん急に」
颯ちゃんに見降ろされて、後ずさりながら恭太郎が言った。
「どこの馬の骨かもわからない野郎に、一香さんの素肌を見せてもいいと思っているのですか」
「は?」
「君以上の猿が多くいるかもしれない野蛮な海に、一香さんを連れていくことを、どう思っているのか、僕が納得するように答えてもらえますか?」
全身が凍り付くほどの冷ややかな視線を浴びせられた。その冷たさに体が凍えてしまう。
恭太郎は颯ちゃんから視線を逸らすように、一度床を見て何やら考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。
「……せやな。颯也の言う通りや」
めずらしく恭太郎が折れた。
「海やないな。山に変更するように言うわ」
「何の話?」
私がきょとんと問うと、「ああ、さっきの、夏休みに遊びに行くところの話」と恭太郎が答える。
「山でもええやろ? 一香」
「海でも山でもどっちでもいいよ。私は行かないから」
「は?」