そっと手のひらを開けてみる。

『これは?』

 手渡されたものは、黒くて丸い専用の小さなケースだった。そちらから、ほんのりと独特な香りがする。少しスパイスのきいた嗅ぎなれない香り。

『これは、特殊なお香の一種で、塗香(ずこう)と言います』

『塗香……』

 横の穴から出すタイプの粉末式のお香のようだ。このような形のお香を私は見たことがない。

『ええ、粉末状のお香です。これはケースから少量だして手のひらですり合わせます。そして、手首でも首元でも、好きな所に直接ぬってください。初めはスパイシーな香りがしますが、時間と共に、甘い香りに変わってきますので』

 スッと鼻に届く香りは、誰のものでもない香りがした。

 スパイシーな香りは夏にぴったりだとも思った。スパイシーなのに、時間と共に甘く変化するお香なんてあるんだ。やはり颯ちゃんは素敵なお香を知っている。

『でも、どうして私に?』

『以前に匂い袋の香りがきれたと仰っていたので、その変わりです。もう一香さんは高校生ですし、匂い袋ではなく、こちらのほうが良いかと思って用意していました』

『そうだったんだ……、颯ちゃん、ありがとう。大事に使うね』

『……はい』

 朗らかに颯ちゃんが笑った。