逆に聞き返されてしまった。
 黒ぶち眼鏡の奥にある瞳は曇りがない。恭太郎への憎しみまで感じさせる冷たい瞳だ。

 ここに恭太郎がいなくてよかった……。

『違うよ! 恭太郎は、私を助けてくれただけで』

 元気のない私を外へ連れ出してくれたのは、恭太郎の優しさだ。

『助ける? 何故?』

 そう言う颯ちゃんの瞳の色は変わらない。そんなに冷たいと私が凍えちゃう。

『えっと……だから……なんていうか……』

 だって、恭太郎に連れられた理由は、私が浮かない顔をしていたから。その理由は “颯ちゃんが誰かとデートするのが嫌だったから“。

 そんなことを本人の前で言えば、告白していることと同じだ。
 そんなことは恥ずかしすぎて、絶対に言えない。

『えっと……、コ、コンタクトがずれたの! だから、涙目になってたんだと思う!』

 我ながら古典的なダサい言い訳になってしまった。
 彼は、焦る私にフッと笑って言った。

『わかりました。では、詳しい理由は聞きません。猿太郎のせいでなければ、それでいいんです。でも、もうあんな無茶なことはやめてください。心臓がいくつあっても足りません。一香さんは、ご自分のことをよくわかってらっしゃらないのですから』

『自分のこと?』

『ええ、ダメです。そういう上目使いもいけません』

 別に上目使いをしているつもりはなくて。ただ颯ちゃんの背が高いから見上げているだけなんだけど。

 でも、そこまで言われたら、馬鹿な私でもわかってしまう。

 やはり、彼が私を見つめる視線は、家族目線。
 保護者のような、兄のような気持で見守られているんだって……。
 改めてそう痛感してしまって、目を伏せた時、手の中に何かを握らされた。

『一香さん、これを』