「高校生くらいになってようやっと、一人で食べるご飯にも慣れてきて、味を感じるようになったんですけどね」

 私はそう言って、自分自身の話を締めくくる。

「それで、もしかしたら……エミリア様がご飯を食べないのは、偏食もあるけれど、寂しさもあるんじゃないかなって思ったんです」

 その予感は的中した。今日のエミリア様の表情は、普段よりも嬉しそうに見えた。お父さんである魔王様にいいところを見せたくて、きっと無理して食べたに違いない。あとでお菓子でも作って褒めに行こうかな。

「そうか。いや、そうだな……あまりエミリアと共に過ごす時間がなかったのは確かだ。これからは、二人で過ごす時間を作ってみるよ。そうだな、コユキの作った食事を一緒に食べるのはいいかもしれない……」

 魔王様はそうひとりごちる。

「ありがとう、コユキ。親子の関係を見直すきっかけになったよ」
「いえいえ! 私こそ、赤の他人なのに余計な口出しをして……」
「とんでもない。私たちは君に依頼をしている立場だ、もしこれからも何か思うことがあれば遠慮なく言って欲しい」

 私が遠慮がちに頷くと、魔王様は付け足すように「そうだ」と呟いた。

「その【魔王様】という堅苦しい呼び方も辞めてくれないだろうか?」
「えぇっ!」
「先ほども言った通り、私は君に仕事を依頼している立場。できる限り対等でありたい」
「急にそんな事言われましても……」
「気軽に【レオニード】と呼んでくれて構わない。エミリアのことも、そう呼んであげて欲しい」

 彼女の偏食をなおすことよりも無理難題だ。でも、そう【お願い】されてしまったのであれば……応えた方がいいのかもしれない。でも急に馴れ馴れしく【レオニード】なんて呼ぶことはできない。うんうん唸りながら、私が導き出した答えはこうだった。

「じゃあ、親しみを込めて【レオさん】なんてどうですか?」

 魔王様はきょとんとした顔をしたので、私は慌てて「やっぱり今のなし!」と叫ぼうとした。それよりも先に、彼は大きな口を開けて笑い始めた。そんな姿、この世界に来てから初めて見た。私も釣られて、へらへらと笑いだす。

「面白いな、コユキは。そんな呼ばれ方をするのは初めてだ」
「嫌じゃないんですか?」
「全く。心地いいくらいだよ……そうだ、コユキ。もう一つお願いがあるんだが」

 魔王……レオさんは目じりに浮かんだ涙を指でふき取り、お願いを付け加える。

「今日の夜食もお願いできないだろうか?」