加賀の人は称してある集落を、「金の三昧」と呼んだ時代がある。
それは「金の墓地」「金の墓守」を意味する

"日本一の富豪村" 伝説

名だたる北前船主を多数輩出した北前船主の郷。
北前船とは、江戸から明治にかけ莫大な富を得た 弁財商船だ。

残念ながら、シオンの知識としては、ここまでだった。

浅野川の袂、
展望デッキで休憩する、

ヨミと シオン達は、
橋の下で、
揺れる 鯉のぼりを見ている。


「本部オフィスがある、大聖寺川の河口が、瀬越村って言う 『日本一の富豪村』だったのよ。わたしも、オーナーから聞いた話だけど。」

ヨミは、シオンに 次の 顔出し先を示して、展望デッキのベンチから立ち上がった。

「えー?!富豪村伝説の場所って、あそこなんですかー?!驚愕!『金の墓守』ですよー!」

歩きながら、話を続けるヨミを、シオンは 慌てて追い掛ける。


北前船は、
ちょうど春彼岸に大阪を出て、瀬戸内、山陰、下関経由で日本海に『買い積み←買い入れ品を売り』をして航海していく。

普通の物流は、運搬だけだが、北前船は、違う。
港で、荷を下ろして仕入れ、また運ぶ港で売る買う。
今度は、北陸、東北、北海道に向かうのだ。

もとは、近江商人御用達船が、次第に船主自ら 商いを始めた。
『海の百万石』と呼ばれた豪商も生む。動く海上マーケットだ。


「そうだわ!せっかく途中にあるから、後輩ちゃんの前途を祈りに行きましょ! 北前船に縁あるし。」

と、シオンを再び車に乗せて ヨミが向かう。
そこは、あまり観光客がいない社だった。

とは言え、由緒ありそうな境内。 何より 驚きの神門に、シオンは釘付けになる。
神社なのに、まるで チャペルのような『四面五彩のギヤマン=ステンドグラス』を配した神門があるのだ。

「日本でもここだけでしょうね、こんな門がある神社は。」

そう、ヨミは ドヤ顔で、シオンに教えた。

「ほら、ステンドグラスがどうのって 前に聞いてきたでしょ?後輩ちゃん。だから、絶対見せたかったのよ。」

ギヤマンとは、江戸時代オランダからきた言葉で

『ダイヤモンド』の語源だ。

「夜は、御神火が灯って、厳かよ。昔はね、金沢港の灯台の役目をしていた門なの。北前船は、さっきの浅野川河口まで乗り入れてたんだって。この門の光は、日本海まで届いたのよ。」

『板子一枚下は地獄の海』

白帆に風を頼みの綱とした航海。『間違いましたら 後をよろしく』と家族に告げる、命がけの船旅だ。

「まさか、ここから 日本海まで光がー。信じられないですよー。」


基本、北前船は大阪に停泊させる。北海道から今度は、ニシン、昆布、数の子、鮭、鱒を積んで、港を売回り、初冬頃、大阪に帰るのだ。
だから、浅野川河口は、経由港なのだろう。
それは、束の間、家族の街に戻れる 『ダイアモンドの灯火』だ。


ヨミとシオンは、石鳥居を潜って、神門に向かう階段を登る。


「北前船はね、1回の出港で戻れば 千両=今にして1億円の収益を持ち帰るのよ。それが、船の数42船で、1度で42億円。当時の村の総資産は1千億円超えだって。ありえないわよ。」

そう 息をはずませながら、ヨミはシオンに 教えてくれる。
神門は、煉瓦の台座と、三層楼閣の造りだった。


「北前船の昆布ね。琉球を通して中国に『徐福伝説、不老不死の昆布』って取引されるの。実際、中国のバセドウ病薬としてね。それで、中国の薬材を、国内で高く売る。」

その話に、シオンは思わず声をあげる。

「なんですか?!それ!不老不死の昆布!人魚の肉じゃないですか!」

へぇー、さすが後輩ちゃんね。とヨミが、シオンに笑った。
神門の下に二人は着く。見上げると、梅鉢紋と竜の木彫り、注連縄がみえる。

「財政難に陥っていた薩摩藩は、その資金をもとに、倒幕したのよ。まあ、北前船が明治維新を担ったわけね。」

革命開拓スピリットは、その上
海運の功績も残した。

韓国、ソロモン、タスマニア、オーストラリア、アメリカまで鎖国中に密貿易を行い、後に貿易の先覚者として評価される。

「富豪村全体が 当時交易の宝の山で、今でも 邸宅に 沢山の『お宝』が眠るとか。オーナー曰く、あの屋敷街はね、巨額の富が流れたロマンの余光なんだって。」

ふと 傍らをシオンが 見ると、ガラス張りのモダンな建物がある。授与所だとわからない、近代さだ。

ヨミと シオンは 拝殿に向かって、
二礼二拍手

懇ろに 祈りを捧げて、

一礼した。


「それにね、ここの社には、『隠れ金の蛙』がいるの!『金に帰る』よ!後輩ちゃんは、これから新天地でしょ?見つけてみるとよろしい!」

そう、シオンに ヨミが鼻息を荒くして けしかける。

言われて、
キャーキャーいいながら
シオンは蛙を見つけた。

せっかくなので、ガラス張りの授与所で、おみくじを引く。
種類が多くて 迷うが、シオンは恋みくじ。
ヨミは、開運みくじを引く。

「先輩、元 富豪村にオーナーがオフィスを置く気持ちって、それだけ、あの場所が 新しいモノが集まる源とか、力があるってことなんですかねー。」

おみくじを開きながら、

てか、なんですか?!このおみくじ。めちゃくちゃ細かい運命の相手が書いてるんですけどー。と、喚くシオンを、してやったりの顔で、ヨミは眺める。

「ちゃんと、聞いた事はないけど。さっき、後輩ちゃん、面白い事言ってたわよね。」

はあー?!と、シオンが、ヨミに、まるで 其どころでは無いと、表情を放つ。


「オーナーがまだ、前職の頃に、大聖寺の船主が持っていた『船箪笥』に出会ったらしいの。」


船箪笥は。
廻船の船頭が、利用した船鑑札、売買仕切書、金銭を
入れる金庫だ。

頑丈なのに、水に浮く。
からくり仕掛けで、凝った意匠。

「オーナーが見た箪笥には、裏蓋に絵が貼られていたって。
当時の船頭の趣味かな、
聖徳太子と人魚の浮世絵が。」

そういいながら、今度はヨミが 自分の 開運おみくじを、

シオンに 開いて見せた。

その中には、
金の鳥が
お守りで入っていたのだった。