絵を描いている最中に、第五王子がやってくることもしばしばだった。
もうすぐ嫁いでしまう妹と少しでも長く過ごしたかったのかもしれないし、自分自身も堅苦しい執務室を抜け出したかったのかもしれない。
二人での会話は弾むようで、王女の表情はとても和やかだ。ころころとよく笑う。
手を動かしながら、思わず言った。
「仲がよろしいんですね」
ふいに湧いた声に驚いたのか、二人は同時に口を止め、こちらに振り向いた。
「あ、申し訳ありません、不躾なことを」
たじろいで、頭を下げる。
王子のほうが、いやいや、と手を振った。
「そうだね、私たちは王族の中では仲が良いほうかな。第一王子と第二王子はあからさまに仲が悪いしね」
そう言って、いたずらっ子のようににやりと笑う。隣の王女が、お兄さまったら、と咎めたが、強く止める気はないらしい。
「母は違うけれど、私とエイラは年が近いからかな、割と仲が良いほうだよ。母親が違ったり同じだったりするけれど、皆父上の血を受け継いだ兄弟だから仲良くすればいいのだろうが、人の感情ばかりはどうにもね」
そう言って肩をすくめる。
「こんな風に仲がいいのは、珍しい?」
真顔でそう言うから、嫌味とか皮肉とかそういう類ではなく、本気で一般的な兄弟のことを訊いているのだろう。
「どうでしょうか。ただ、うちはこんな風ではないですね。いつも喧嘩ばかりです」
苦笑する。故郷の妹が思い出される。そんな風だったが、私が王城に出るときには涙を浮かべてくれていた。
「そうか、やはり普通とは違うのかもしれないね。今は考えられないけれど、昔は兄妹で結婚することもあった一族だし」
「ああ……」
それは、王の系図を見れば一目瞭然だ。血の尊さを求めた結果なのだろう。今では兄妹での婚姻はないが、従兄妹くらいならば普通に見受けられる。
「まあ、当時はそれが普通だったんだろう。私たちはその血をひいているし、王城にずっといるから、なにがしかおかしいのかもしれないな」
「そんなことは」
「アレスお兄さま」
そこで、王女が口を出してきた。
「そろそろお口が過ぎてきていてよ」
珍しく厳しい表情で、王子を睨んでいる。
「ああ、そうだな」
言われて王子は肩をすくめる。
「ジルの前だと安心してしまうのかな。ついしゃべりすぎてしまった」
「そのお気持ちはわかりますわ、お兄さま」
「おや、そうなのか。ずいぶん信頼されたのだな、ジルは」
そう笑顔で言われて、光栄です、と頭を下げる。
どうだろう。確かに最初の頃よりは、かなり打ち解けてきているとは思う。
けれど、王子といるときの王女の表情は、私といるときには決して見せない穏やかで美しい表情で、王子がいると私の筆は進む。
「邪魔したね。ではまた」
王子がそう言って立ち去ったあと王女の顔を見ると、やはりどこかぎこちなくて、心の中でそっとため息を漏らした。
もうすぐ嫁いでしまう妹と少しでも長く過ごしたかったのかもしれないし、自分自身も堅苦しい執務室を抜け出したかったのかもしれない。
二人での会話は弾むようで、王女の表情はとても和やかだ。ころころとよく笑う。
手を動かしながら、思わず言った。
「仲がよろしいんですね」
ふいに湧いた声に驚いたのか、二人は同時に口を止め、こちらに振り向いた。
「あ、申し訳ありません、不躾なことを」
たじろいで、頭を下げる。
王子のほうが、いやいや、と手を振った。
「そうだね、私たちは王族の中では仲が良いほうかな。第一王子と第二王子はあからさまに仲が悪いしね」
そう言って、いたずらっ子のようににやりと笑う。隣の王女が、お兄さまったら、と咎めたが、強く止める気はないらしい。
「母は違うけれど、私とエイラは年が近いからかな、割と仲が良いほうだよ。母親が違ったり同じだったりするけれど、皆父上の血を受け継いだ兄弟だから仲良くすればいいのだろうが、人の感情ばかりはどうにもね」
そう言って肩をすくめる。
「こんな風に仲がいいのは、珍しい?」
真顔でそう言うから、嫌味とか皮肉とかそういう類ではなく、本気で一般的な兄弟のことを訊いているのだろう。
「どうでしょうか。ただ、うちはこんな風ではないですね。いつも喧嘩ばかりです」
苦笑する。故郷の妹が思い出される。そんな風だったが、私が王城に出るときには涙を浮かべてくれていた。
「そうか、やはり普通とは違うのかもしれないね。今は考えられないけれど、昔は兄妹で結婚することもあった一族だし」
「ああ……」
それは、王の系図を見れば一目瞭然だ。血の尊さを求めた結果なのだろう。今では兄妹での婚姻はないが、従兄妹くらいならば普通に見受けられる。
「まあ、当時はそれが普通だったんだろう。私たちはその血をひいているし、王城にずっといるから、なにがしかおかしいのかもしれないな」
「そんなことは」
「アレスお兄さま」
そこで、王女が口を出してきた。
「そろそろお口が過ぎてきていてよ」
珍しく厳しい表情で、王子を睨んでいる。
「ああ、そうだな」
言われて王子は肩をすくめる。
「ジルの前だと安心してしまうのかな。ついしゃべりすぎてしまった」
「そのお気持ちはわかりますわ、お兄さま」
「おや、そうなのか。ずいぶん信頼されたのだな、ジルは」
そう笑顔で言われて、光栄です、と頭を下げる。
どうだろう。確かに最初の頃よりは、かなり打ち解けてきているとは思う。
けれど、王子といるときの王女の表情は、私といるときには決して見せない穏やかで美しい表情で、王子がいると私の筆は進む。
「邪魔したね。ではまた」
王子がそう言って立ち去ったあと王女の顔を見ると、やはりどこかぎこちなくて、心の中でそっとため息を漏らした。