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「エ.エスコート⁉」

真夏の公園の昼下がり。大声とともに思わず立ち上がってしまい、慌てて周囲を見回しまた座る。

『そうよ? みんな旦那様や彼氏を連れてくるの』

額から汗が流れたのは暑さのせいか、どれとも冷や汗か。
今、私は小次郎の散歩で訪れた公園の木陰のベンで電話を受けている。

電話の相手は高校時代からの友人だ。かねてより交際してきたセレブ男性とこの秋に挙式するという。
いったい何に私が滝汗をかいているかというと、友人たちへの結婚報告パーティーは男性のエスコート形式で行うというのだ。それも自前調達の。

『紺子って秘密主義だから、今まで彼氏を紹介してくれたことなかったじゃない? だから紺子がついに彼氏をお披露目するっていうんで、みんなすごく楽しみにしてるみたいよ。菱沼の人だなんてすごいエリートよね? うふふ』

すでに私の出席は決定事項として広められている……。
耳元で聞こえる毒をふんだんに含んだ言葉とは真逆に、目の前に広がる風景は究極にのどかだ。

小次郎はバッグから出して地面に置いてやると甲羅から嬉しそうに顔を出し、クローバーの茂みに向かって一目散に飛んでいった。といっても亀レベルの全力疾走だ。見た目は地面に岩が落ちているようにしか見えないけれど、飼い主の目にはクローバーに埋もれて小次郎がご機嫌なのがよくわかる。

しばし現実逃避していた私は嫌々ながら会話に戻った。何とかして回避しなければ非常にまずい。