「すみません!」

ところが大ヒンシュクを買うはずが、車内にいたおばちゃんたちが一斉にティッシュを持ってわらわらと集まってきた。

「お姉ちゃん、これ使いな!」

「これも」

「こっちもあるよ!」

いったい幾つポケットティッシュを持ち歩いているのやら、田舎のおばちゃんたちの女子力はすごい。お洒落とは言えないズタ袋のようなバッグから次々と出るわ出るわ、見る間に床はティッシュで埋め尽くされ、私の手にも真新しいポケットティッシュがねじ込まれた。

「服、汚れんかった?」

「残念だったねぇ。お土産だったんだろ?」

口々に慰めてくれるおばちゃんたちの協力のおかげで何とか床を拭き終え、ペコペコ頭を下げながら電車を降りる。私の手にはどこかのファミレスで取ってきたようなウェットティッシュと、なぜか飴ちゃん。

駅前のコンビニでベタベタする手を洗わせてもらい、アパートまでの夜道を歩く。コンビニ袋の中身はいつものチューハイ。今日の唯一の持ち帰り品だ。

一人になると恥ずかしすぎる失敗が余計に染みてくる。認定試験といい怪我といい、最近の私はめちゃくちゃ格好悪い。

「私のばーか」

振り仰いだ空には東京よりたくさんの星がまたたいていた。遠くの水田からはカエルの大合唱が聞こえてくる。おばちゃんがくれた飴玉を口に入れると、黒糖の素朴な甘さが口いっぱいに広がった。

知り合ったばかりの仲間からも、見知らぬ誰かからも、この土地で私はたくさんの人に助けられている。