帰路の長い路線で電車に揺られながら、つくづく自分に呆れた。でもあのカップルの前で一人タピオカをチュルチュルしながら立ち去るなんて、やっぱり我慢ならないのだ。

膝の上の紙袋には甘―いタピオカミルクティーが二つ。

(どうしよう、これ……)

そこで私はさきほどの案を決行しようと考えた。
今日は金曜日で暇な日、佐藤主任は休みのはずだ。差し入れを届けるついでに柳井君にこれをあげよう。今から行けば退勤時間に間に合うし。
かもめ店の最寄駅で電車を降りる頃にはあのカップルのことはすっかり忘れ、弾む足取りで店に向かった。

「柳井さんですか? ついさっき退勤されたので、まだいると思います」

精肉部では夜間のアルバイトさんが作業を始めるところだった。和菓子の箱を言付け、バックヤードを探したけれど柳井君の姿はない。駐車場で待つのが確実だと思いつき、屋上階にある従業員駐車場に向かった。

(柳井君の車は……あった!)

遠くに彼の黒いバンが見える。まだ帰宅していないことがわかり、ほっとした時だった。
エレベータ―棟の向こう側から人の話し声が聞こえ、何の気なしにひょいと覗いた私は慌てて頭を引っ込めた。そこにいたのは柳井君と、女の子。