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病院で指示された安静期間が過ぎる頃には傷口は塞がり、日常生活ではさほどの不自由はなくなった。でも仕事はまだ休み中だ。

〝絶対、一週間は肉を触っちゃ駄目だからね! あと、ここに来るとつい力仕事しちまうんだよ。そしたら傷口パックリさ〟

矢部さんの主張は柳井君から聞いた。大けが経験者だという矢部さんが譲らず、結局私の休みは傷病休暇に五月の連休に休みを取らなかった分の代休もくっつけられて八日間に延長されている。

北条怜二からはあの翌日「痛みは引きましたか」と短い電話があった。その後は佐藤主任を介したやり取りで、傷病見舞金などについての事務的なことばかりだった。

もしかすると〝僕個人の発言〟は動転した私の脳が作り出した幻聴かもしれない。ロボットのように用件をサクサクと片付ける彼からの伝言を聞いていると、自分の記憶が甚だ頼りなく思えてくる。

ただ、私がかなり泣いたことは翌朝の瞼の腫れっぷりからして間違いなかった。美しい泣き姿でなかったことは記憶を辿るまでもない。
梶山茜が北条怜二の前で泣いてみせたと聞いて軽蔑しておきながら、自分も似たようなことをやってしまうなんて。彼にしてみたら二度目、もうウンザリだろう。

さっさと忘れたいのだけど、仕事を取り上げられた干物女の八連休は落ち込むぐらいしかやることがない。