窓の外を田舎のまばらな明かりが流れていく。この三か月、いつも一人で歩いていた風景を今は車の中から、そしてなぜか北条怜二と一緒に眺めている。

何だろう、この状況。

笑おうとしても笑えない。ミルクの甘みが喉に染みて、涙腺にまで染みてくる。

「すごく美味しいです」

意味もなく繰り返した。彼も返事に困るだろう。でも何か言っていないと気持ちがどんどん緩んで、泣きだしそうだった。
洟が危なくなり啜り上げる。でもまだ泣いていない。

黙ってハンドルを握っていた彼が不意に口を開いた。

「就業時間後なので、僕個人の発言です」

僕個人? もう一度洟を啜り、問いかけるように彼の方を向く。

「あなたには酷な思いをさせてしまいました」

わずかな光を受けた端正な横顔に見とれる余裕もなかった。意外過ぎる彼の言葉に驚いて何も言えない。

「人員不足の実態について佐藤主任から聞きました」

長年常態化していて、しかも本部に隠している人手不足を佐藤主任から説明しないはずだ。きっと彼が電話で聞き出したのだと思う。
でも人事部の立場上、彼が私に言えることは限られていて、それはこの異動そのものもそうなのだろう。人としての彼の姿を初めて垣間見た気がした。