そこからは笑っている余裕などなかった。

縫合なんて初めてだ。ガーゼが剥がされた時、傷口を目の当たりにした私は思わず目を瞑ってしまった。怪我をした時は溢れる血で見えなかったけれど、周辺まで赤黒く変色した傷口は覚悟していたよりずっとグロテスクだった。

私の指、どうなるんだろう……。

ショックと不安を凌ごうと処置台に置いた手から顔を背け、隣に立つ北条怜二のネクタイを凝視する。
すると肩に手が置かれ、励ますように軽く叩いて一瞬で離れた。頭上で彼の声が尋ねる。

「どのぐらい縫うことになりますか?」

「うーん、六針ぐらいかな。会社の方だね? 縫合後に診断書を出しますよ」

医師はそう答えてから私を慰めるように付け足した。

「麻酔は打つからね、今より楽になるよ。綺麗に治るから大丈夫」

廊下で待つことになった北条怜二は処置室を出る前、医師に要望を加えた。

「彼女、左手も少し怪我をしています。そちらも手当をお願いできますか」

それを聞いて唇を噛みしめる。今は小さな一突きでも感情が緩みそうだ。

麻酔を打つと痛み和らいだものの、縫われている感触はわかる。すべてが終わった頃にはほっとして頭がぼんやりしていた。