俯いてそっと隣を見る。
彼は上着を脱いだ姿で、夏素材のブルーのシャツがとても涼しげだ。でもネクタイが少し緩み気味に曲がっているのは初めて見る姿だった。きっとこちらへの移動で暑かったんだなと、申し訳なく思う。

膝に置かれた手はとても綺麗だ。それを見ているうちに血がこびりつきガーゼで膨れ上がっている自分の手が気になり、怪我をした右手を隠すように左手を重ねる。

「……左手の傷は?」

「え?」

「左手の中指です」

動かした際に見えてしまったのだろう。いつもこすれている指の傷のことだ

「これは包丁の背が当たってできる傷で、別に大したものでは……ペンだこみたいなもので」

ペンだこだなんて表現を使うんじゃなかった。合コン当時ガリ勉女丸出しだったことを思い出して赤面する。

「ペンだこって懐かしいですよね、あはは……」

乾いた笑いが妙に浮いたところで処置室のドアが開いた。

「仁科さん! 仁科紺子さん、処置室にお入りください」