「怪我をした時の状況は佐藤主任から聞きました。素早く対応いただき、ありがとうございます。ここからは僕が付き添いますのでどうぞお戻りください」

「あ、ありがとうございます。じゃあ……仁科さん、僕は戻りますね」

柳井君は遠慮がちに立ち上がり、私の顔を覗き込んだ。

「困ったらいつでも電話してください。片手だと何かと不自由だから」

「柳井君、ありがとう。本当に」

「お大事に。店のことは心配しないでください」

柳井君が気づかわしげに振り返りながら出て行ったあと、北条怜二は私の隣に腰を下ろした。

技能試験で突っかかったこと、今日もこうして迷惑をかけてしまっていることを謝りたいのに、どう切り出していいのかわからない。
でも気まずさと一緒に、もう大丈夫だという絶対的な安心感も同居している。苦手な人のはずなのに不思議だった。

それでも彼の仕事を増やしてしまったのが現実だ。気持ちを建て直すように静かに深呼吸した。いたわってもらえる状況だからといって仕事の場で弱々しさを出すような女にはなりたくない。