「お疲れ様です。座ってください。出血は?」

歩幅の大きい靴音とともに北条怜二の声が近づいてくる。
私を座らせた彼はいきなり目の前にしゃがみ込んだ。自然なことなのかもしれないけれど、親身に思える仕草に驚き、伏せていた顔を思わず上げた。

彼は血で汚れた作業着とガーゼに素早く視線を走らせ、じっと私の顔を見つめた。彼の表情は冷静さを保っているようで少し緊迫が見える。

「気分は? 貧血などないですか?」

「……大丈夫です。さっき止血していただいて、今は縫合の処置待ちです」

彼の瞳は濃い灰色だと初めて知った。私より少し低くなった位置、すぐ目の前にある彼の顔。なぜだか急に気が緩んで声が少し震えてしまった。こんな時こそしっかりしていたいのに。

「痛みはひどいですか?」

「痛くありません」

本当はものすごく痛かった。ズキズキと脈打つように疼いている。指が腐り始めたんじゃないかとか、変な菌が入ったんじゃないかとか、まともな怪我は初めてだけにまるで子供みたいな不安でいっぱいだった。

彼はしばらく私を見つめたあと、私と同じくまだ作業着姿の柳井君の方を向いた。