「あ、佐藤主任からです。菱沼の人事部さんに連絡したらしくて」

「えっ」

項垂れていた私は驚いて顔を上げた。こんなこと連絡行っちゃうの?
技能試験は散々だったし、余計に呆れられただろうなと泣きたい気分になる。

「それで、こちらに向かわれているそうです」

「ええっ?」

今度は飛び上がってしまった。誰が、と訊かなくてもたぶん彼だ。

「この病院に? わざわざ来るの? いつ頃?」

「病院名を訊かれて答えたら〝今から行きます〟って仰ったそうです。時間までは書いてないですけど」

怪我をしたのは確か午後五時前、今は午後七時。連絡したのはいつだろう? もう来るのだろうか? 縫合しなくていいから、今すぐ逃げ出したくなる。

「あの試験以降も菱沼の人事部さんから佐藤主任宛に何回か連絡があったみたいですよ。仁科さんの状況を訊きに。僕はたまたま事務室にいて電話を取り次いだから知ったんですけど」

「そうだったんだ……」

北条怜二が私の知らないところで気にかけてくれていたと知り、あの日の幼稚な自分がいっそう悔やまれた。俯いてガーゼのほつれをいじる。

「あっ……、お疲れ様です」

しばらくして待合室に入ってきた人物を見て柳井君が立ち上がった。ドアが開閉する度に緊張していた私も立ち、俯いたまま頭を下げる。こんな用件で来させてしまったことで身が縮むようだった。