その合コンで北条怜二は一番人気だった。
でも当時の彼も今と同じく、女子たちのアプローチを冷ややかにあしらいながら淡々と飲んでいた。きっと人数合わせで借りだされたのだろう。
ところが途中から彼がじっと私を見つめ始めた。

(この人、もしかして、私のこと……)

女子校を出たばかりの世間知らずとはいえ、あの時のおめでたい勘違いを思い出すと今でも壁という壁に頭を打ち付けたくなる。

『あっ、あの、サラダ、取り分けます』

五歳年上の大人の男を相手に舞い上がり、ありもしない女子力を見せようと奮闘する。でもサウスポーの私は右利き用のトングがうまく扱えず、レタスを落としてばかりいた。
そんな私をただ眺めていた彼がついに口を開いた。

『はみ出てます』

あの声は今でも耳にこびりついている。シンデレラを迎えに来た白馬の王子にしてはあまりに平坦な口調だった。

『えっ?』

『左胸です』

左胸といえば心臓だ。あなたにドキドキしてるの、伝わってる?
頬を染めて小首を傾げた私に彼は溜息を一つつき、無慈悲なまでに一切省略なしの説明を加えた。

『左の胸の詰め物がはみ出しています』

彼の視線を辿り見下ろすと、あろうことかワンピースの胸元からシリコンパッドが上に飛び出ていた。私には一枚で足りず二枚入れたのが事故原因だろうか……ということはもうどうでもいい。