(どうしよう、みんな忙しいのに)

自分の指もさることながら、みんなの足を引っ張ることへの恐怖が大きく、早く作業を再開しなければと焦燥にかられる。

矢部さんと佐藤主任は売場に出ていて周囲にはいない。柳井君も部屋の遠くで作業していて私の異変に気付いていないようだった。
ミートペーパーで傷を押さえたけれど出血が止まる気配はなく、仕方なくニトリル手袋を二重にはめる。すると見た目は何事もなかったかのようになった。

手袋の上から手を洗い直して切ろうとするけれど、手に力が入らない。青い手袋の色が変わり、中で血が流れ出しているのが透けて見える。
そこに柳井君が小走りでやって来た。

「遅くなってすみません! 豚が終わったんで僕も鶏に……、仁科さん、血が‼」

「え……あっ」

柳井君の視線を辿り見下ろすと、真っ白な作業服に点々と血が垂れていた。作業台を汚すまいと気を取られ、気づいていなかった。

「とりあえずこれに座って、手を心臓より高く上げてください」

手近にあった段ボール箱に座らされ、言われるまま手を上げると手袋の中に溜まっていた血がたらたらと腕を伝った。

「ひどい出血じゃないですか!」

柳井君は救急箱を取りに事務室に走っていった。

「ちょっと何座ってんの! ……うわっ、切ったの⁉」

品出しで売場に出ていた矢部さんが戻ってきて声を上げる。その横では佐藤主任も騒いでいた。