「今日は金曜日で暇なのに、どうして全員出勤なのかな」

今は昼休憩で、今日も柳井君と一緒だ。
スーパーの一週間には波がある。一番忙しいのは土日で、その次に忙しいのは新聞の折り込みチラシが入る水曜日。一番余裕があるのは土日の大売り出しを前に買い控える金曜日。今日はその金曜日なのに、なぜか全員出勤シフトなのだ。

「今日の午後は忙しくなるんです。明日、地区運動会があるんですよ。だからお弁当材料が売れるんです」

「地区運動会?」

「自治会主催で、子供からお爺ちゃんまで、地域全員参加の運動会です」

地域全員参加なんて、都内で育った私には初耳の催しだった。会場では父兄会や自治会による焼きそばや豚汁の炊き出しがあるので、豚こま肉や豚バラ肉、唐揚げ肉が大量に売れるという。青果部はミニトマト、日配はビールやペットボトルのお茶といった商品。
こういう時に一つでも商品を切らすとお客様は隣のスーパーに流れるので、品切れは全部門に迷惑をかけてしまう。

「それで今朝、納入が多かったのね」

心の中で溜息をついた。
唐揚げ肉を切る作業は一番きつい。家庭では考えられない量を毎日切っていると、包丁の背が当たる指の腹が擦り剝けてヒリヒリする。一晩で治るはずもなく、翌日にまた同じ場所が包丁でこすれ、手袋を外してみると血が滲んでいる。
世のパート主婦たちもタママート社員も当たり前にこんな思いを経ているのだろう。そう思うと、指の痛みは誰にも言えない。