埼玉の辺境には都内より季節が早く訪れる。日々の仕事を黙々とこなすうちに気づけば七月に入り、梅雨明け宣言を待てない蝉がひと足早い初夏の声を響かせる季節になっていた。
あの日彼に食ってかかったことを私はずっと後悔し続けていた。彼が言う通り、技能とか練習量以前の、根底にある原因を私は自覚していた。
〝どうして私がこんな仕事をしなくちゃいけないの〟
左遷を言い渡された当初からのこの本音を捨てきれていないからだ。
そしてそれは私に深く根付く序列意識が原因だということもわかっている。
でも、それを乗り越える必要があるのかがわからない。
ステイタスを競い合い友人たちに囲まれているのも、そんな仕事早く辞めてしまいなさいと母に罵倒されるのも相変わらずだ。そんな環境で育ってきた私が根底から変わること、周囲を跳ね返すほどの情熱をこの仕事に持つことは無理だとも思う。その一方で、私を擁護した矢部さんの意外な姿を思うと心のどこかが痛いのだ。
〝あの人事面談の場で僕が言ったことに嘘は一つもありませんでした〟
あの時理解できなかった台詞を幾度となくつつき回してみたけれど、そのうち字面以上のものをひねり出そうとしている自分に呆れてしまった。
何を期待してたんだろう。
何を甘えてるんだろう、私。
そんな逡巡を振り切りながら、完璧主義の私は仕事をおざなりにできなくて、必死でこなすうちに日々は過ぎていく。