『意外じゃない? 冷徹首切り人なのに』

梶山茜とは嫌うほど関わり合いもないし、攻撃さえされなければ正直さほど興味はない。だけどあの北条怜二が引き留めたということが、なんだかショックだった。

『もしかして巨乳好きとか?』

「あ、そうかも」

『いよいよ紺子の敵だよね!』

もやもやを吹き飛ばそうとして、美保子の冗談に乗ってみる。

『今まで北条課長が社内で振った相手って貧乳だっけ? 総務の飯島さんでしょ、受付の堀内嬢でしょ、食品カンパニーの和田さん……あ、あの人は違うか。ええと他には……』

「いやいや、全員振ってるし」

美保子が詳しく検証し始めたので遮った。彼がどれだけ難攻不落かを示されると、彼が梶山茜には寛大だったという話が余計に際立ってしまうから。
面白がるところなのに、どうして聞いていられないのだろう?

「真面目な話、出向先だと一応相手方の管轄だし、簡単には切れないんじゃない?」

もっともらしい理由をつけてみたけれど、美保子との通話を終えた後も私はずっとモヤモヤしていた。

「ひがんでるんじゃないし」

寂しい胸を見下ろしていた自分に気づき、否定した。貧乳コンプレックスとかじゃなくて、何かもっと深い部分がしくしくする。

「ねえ、小次郎。私だったらどうなってたんだろうね」

小松菜を頬張る小次郎に訊いてみる。当然ながら小次郎は私の問いなど聞いてはおらず、小松菜に夢中だ。それを見ていると少しだけ和んだ。

でも──。

もし辞めたいって言ったら、彼は私を引き留めてくれるのかな。

私は構ってちゃんではないのに。自分の足でしっかり立つ鉄の女なのに。こんな甘えたことを考えてしまう自分が嫌だった。