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『久我店で梶山茜がダダをこねてるらしいわよ』

美保子からそんな電話があったのはその週末だ。

『久我店の渉外担当から菱沼に伝わってきた話だから確かよ』

「何があったの?」

梶山茜のきな臭い話題に食いつきつつ、電話のこちら側で私は湿布薬を貼ったふくらはぎを百均のマッサージローラーでコロコロやっている。
職場では一日中立っているうえ、挽肉と鶏団子の特訓中はやたらに力が入っているらしく、夕方には脚がパンパンに腫れてしまうのだ。

『なんかね、お客さんから香水が不快だってクレームついたんだって』

「ああ……それ、私も気になってた。いいのかなって」

『あと、タママート体操っていうのをやらされるらしいんだけど、それも拒否してるんだって』

「何を甘えたことを」

『えっ、まさか紺子もそのタママート体操やってるの?』

「当たり前よ」

『うそぉ! 見てみたいわ』

電話の向こう側で美保子が爆笑している。

「開店十分前に駐車場に来れば見られるよ。ガラス張りだから丸見え」

開店前から待っているお客さんは意外に多い。白装束の集団が店のフロントに集合して謎の体操をやる光景はなかなかシュールだろう。

「朝礼当番の時は前に立って掛け声かけてる」

『紺子、頑張ってるよね。いろんな意味で』

「そうよ、自分で自分を褒めたいわ」

誰も褒めてくれないけれど、ここまでプライドを捨てただけでも頑張っているのだ。