(疲れた……)

挽肉作業で発生した大量の洗い物をしながらシンクに向かって呟いた。豚肉や牛肉など種類が変わる毎にミートチョッパーを分解して洗浄しなければならない。

「洗えた? 次は鶏団子だよ、早く!」

せっせと洗う背中に容赦なく声が飛んでくる。怒鳴るだけなら楽だろう。

「アンタのためにわざわざ作るんだからね。今の時期は鶏団子は売れねーのに」

矢部さん曰く、かもめ店のような弱小店は売れ残りを出すとダメージが大きい。なので鶏団子は確実に売れる鍋の季節しか作らないのだそうだ。

「九月ぐらいになるとお客さんに〝鶏団子はまだ?〟って訊かれるんだよ。鍋の季節には早いってのにさ」

そう言う矢部さんは仏頂面ながら口元が緩んでいる。自分たちの商品が褒められると嬉しくてたまらないらしい。こういう時、妙に矢部さんが可愛く見えたりするのだけど、まあ一瞬だ。