私も学習した。北条怜二に呼び止められる時はろくなことがない。たとえ「はみ出てます」と言われても、今度ばかりは絶対に胸を押さえるものか。
でも文字通り脇を締めて振り返った私に飛んできたのは、まったく別領域の爆弾だった。

「来月、挽肉と鶏団子の認定試験があるはずです」

「鶏団子……？」

初耳だ。
というか、お願いだからそんな泥臭い作業名を梶山茜の前で言わないで。

案の定、梶山茜が北条怜二の隣でまた失笑している。

「期待しています。頑張ってください」

しかし本当の衝撃はここからだった。梶山茜の前でそんな話題を持ち出した北条怜二に腹を立て、ろくに返事もせずに台車を押し始めた私の背中に戦慄が走った。

「僕も立ち会う予定です。では」


……僕も、立ち会う？

振り向いた私が見たものは、後ろ姿まで完璧な男とスカーフをひらひらさせたキャビンアテンダントもどきが廊下を去っていく光景だった。

「フン！」

駐車場までゴムの靴音をゴツゴツ響かせながらしゃにむに進む。

「バカにして」

再び死に物狂いの帰途、ゆるキャラが描かれたワゴン車は往路より少々運転が荒かった。