台車を押し廊下を戻り始めると、彼が私を止めた。

「車で来られたんですね」

「はい」

「僕が車まで運びます」

「いえ、大丈夫です。軽いですから」

プライドと闘っていたせいで咄嗟に「はい」と言えず強がってしまった。勢いよく台車を押しながら、なぜか胸の奥がチクンとする。

断ってしまったのは、一刻も早く逃げ出したかったから。
今まであまり女性扱いされたことがなくて驚いてしまったから。
あの泥臭い社用車に乗り込むのを見られたくなかったから。

たくさんある理由のどれもが北条怜二の前で格好をつけたがっているようで、そんな自分が気に入らない。猛烈に後悔している中途半端な自分も。

悶々と考えながら進み、遠くに出口が見えてきた時だった。横手にある女子トイレから軽やかなヒールの靴音を響かせて誰かが出てきた。