中を覗いた私はその広さとスタッフの多さに驚いた。今ここにいるだけでも十名は見える。総勢わずか四名で切り盛りするかもめ店とは桁違いだ。

「どちらさんー?」

「あの、かもめ店です。包材を頂きに上がりました」

「はいはい、かもめ店さんねー」

挽肉作業をしていた小太りのおばちゃんが手を洗い、大きな段ボール箱を二つ乗せた台車を転がしてきた。

「中に明細を入れてるから主任に渡してね」

慣れた様子で私にそう告げると、おばちゃんは数秒後には手袋を付け替え、目にも止まらぬ速さで挽肉をパックに詰め始めた。

「かもめ店さん、しっかり頼むよー」

奥の方にいた男性社員からそんな声がかけられた。
佐藤主任の発注ミスだけでなく、売上劣等生のかもめ店に対する励まし半分、からかい半分の言葉だろう。男性社員はそれきりまた作業に集中している。

「ありがとうございました」

みんな忙しそうなので誰にという相手もなく大声で頭を下げ、台車を押して廊下に出る。

こうした一連のやりとりや精肉部の様子を北条怜二に見られていることが恥ずかしかった。

私もかもめ店に戻れば包丁を握り、ああいう作業をする。菱沼の仕事とはあまりにかけ離れた仕事内容と格好だ。かもめ店で奮闘している間に忘れかけていた過去の自分へのプライドが再び滲み出てくる。