ところが店長が返事するより先に北条怜二が立ち上がった。

「僕が案内しましょう」

「いいえ、大丈夫です。お打合せ中のようなので」

「もう用件は終わって帰社するだけなんですよ」

北条怜二はさっさと鞄を持って店長に声をかけた。

「では横山長、引き続きよろしくお願いします」

事務室を出ながら店長と何の話をしていたのだろうと考え、はたと思い出した。

『ブランドビジネス部の梶山茜もタママートに出向らしいよ。久我店って聞いた』

だから北条怜二は彼女のフォローでここに来ていたのだ。そう思い当たると急に不貞腐れたような気分になった。

もう帰社するって……かもめ店には来ないの?
私のフォローには来ないの?

(いや、別に来てほしい訳じゃないし)

二人で歩いていると余計に自分の格好が気になってきた。白い作業靴は靴底が分厚く、ゴツゴツと粗野な音がする。それを聞かれるのが恥ずかしかった。

「……あの!」

唐突に声が出る。これまで退職に踏み切れなかったのは北条怜二にもう一度会うのが嫌だったから。だったらどうせ会っちゃったんだし、今言ってしまえばいいんじゃない?