「お疲れ様です! かもめ店精肉部、仁科と申します。包材を──」

どうして私は威勢よく声を張り上げたりなんかしたのだろう? ドアを開けた私の声はそこで途切れた。


正面の面談テーブルで店長のバッジをつけた中年男性と喋っている、スーパーでは浮きまくるエリート臭を放つ男。丸の内のランドマーク三十二階で下界を見下ろしているはずの男。一か月前のあの人事面談を最後に二度と顔を見ることはないはずだった男。

なぜここに……?

ドアノブを握ったまま硬直する。


「奇遇ですね」

北条怜二は作業着姿の私をしげしげと眺めた。その目がどこか笑っているように見えるのがグサッと刺さる。ファッションビジネス部の元リーダーが形無しだ。

「お元気そうで何よりです」

よく言うよ、元気なはずなかろう。過酷な肉体労働で、しかも猛獣みたいなパートがいる問題店だと知っていて私をぶち込んだくせに。

「……お疲れ様です」

でも、言いたいことはたくさんあるのに突然すぎて素っ気ない返事しか出てこない。

「精肉部に包材を頂きに参りました」

彼から視線を逸らして店長に声をかける。とにかく早くこの場から──北条怜二の前から消えたかった。