「売場があと一個だよ。まだなの?」


ところがこちらにやってきた矢部さんは作業台の上にある袋を見るや否や烈火のごとく怒りだした。


「何やってんの! 若って言ったでしょうが。これ違うじゃん!」


タママートが扱う鶏肉には四ランクあり、ややこしいことに同じランクでも産地によって袋に書いてある名称がバラバラだったりする。

『説明してる暇はねぇ』

でも矢部さんはこの一点張りだ。


「若だよ若! さっさとやり直して! ほんと使えねぇな」

「袋には全部若どりって書いてあります。入ったばかりの人間には区別がつかないことを考慮に入れて最初に説明すべきではないですか?」


私が意見した瞬間、部屋のあちら側で作業していた佐藤主任と柳井君がすごい勢いで振り向いた。今まで矢部さんに盾突いた人間はいなかったのだろう。

低い身長から私を睨み上げる矢部さんの顔はいつもより凄味が増している。数秒間のタメのあと、ドスの効いた声が響いた。


「T大出てんなら楽勝で覚えられんじゃねぇの?」


そういう問題ではないと思う。ササミを置き、私も腕組みをして向き直る。


「まあまあまあまあ」


そこに佐藤主任が揉み手をしながらすっ飛んでくる。最初のうちこそ私もハイハイ言っていたけれど、ここ一週間はだいたいこの繰り返しだ。