「あとさぁ、もも肉の向きが違うんだよ。何回言ったらわかんの?」

すべてにおいて一度もまともな説明がないまま、いつもこうして怒鳴られるのだから理不尽だ。

「全然使えねぇな。こんなんしかいないのかね?」

明らかに私に聞こえるように独り言も飛んでくる。

(ぎっくり腰にでもなればいいのに)

心の中で呪いをかけていると、矢部さんが売場に出て行ったのを見計らって柳井君がコソコソとやってきた。

「仁科さん、もも肉の向きがわからないんですよね」

柳井君が材料のもも肉を取り出し、説明しながら実演してみせる。

「ここの白い筋が何本も通っているところ、これを右側にして巻くんです」

「なるほど! ありがとう、柳井君」

「いえいえ」

柳井君はにっこり笑ってからガラス越しに売り場を見て「やべぇ、戻ってくる」と呟き、急いで持ち場に帰っていった。こうしてコソコソしなければならないのは、私を庇うと二人とも怒られるからだ。

「若のササミ、二十を五追加!」

間一髪、売り場と作業部屋を隔てる扉が音を立てて開き、矢部さんの声が響いた。和んでいた背中に緊張が走るのは私だけでなく佐藤主任や柳井君も同じだ。