今は開店から遅れること一時間、ようやく朝一作業を終えた私は朝二作業に入っている。昼前に来る第二の客足に備えるものだ。
しかし背後からは気の散る声がずっと続いている。

「仁科さんって背が高いよねぇ」

「……はい」

「いやー美人さんだしモデルみたいだよねぇ。身長何センチ?

「…………」

佐藤主任が真面目に仕事するのは朝一作業だけで、それが終わるといつも糸が切れた凧のようにブラブラしている。こんな体たらくでも職場結婚した奥さんがいるというのだから驚きだ。

「ねぇ、何センチ?」

「……一六九センチです」

「いやいやいやいや、もっとあるでしょ!」

ササミの皮をむく手がイライラし始める。

今まで背筋を伸ばして身長を計ったことはない。先生に指摘されない程度に身体を丸める技は小学校時代から磨いてきた。だから私も自分の正確な身長を知らない。大人になってからの身長測定は前回数値よりわざとらしく縮まないよう、なおかつ一六九という最後のラインを越えないよう真剣勝負だ。

「一七十あるよ、絶対」

「…………」

無視しているのはこの話題が気に入らない以前に口をきく余裕がないせいでもある。それと、おそらく私たちにどす黒い視線が向けられているはずだから。

「仁科さん! ダラダラ喋ってんじゃないよ!」

ほらやっぱり。喋っているのは主任なのに、必ず私が怒られる。佐藤主任は飛び上がり、部屋のあちら側に退散していった。